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湯豆腐とは

湯豆腐とは、昆布を敷いた鍋に角切りした豆腐と水を入れて火にかけ、温めたものをつけじょうゆと薬味で食す料理のことです。豆腐には火を入れすぎず、ゆらゆらと鍋で動いたところで引き上げます。やわらかな食感とシンプルな料理であるがゆえに食材のそのものの味を楽しめるところに特徴があります。『料理食材大事典』によると、昆布は淡白な豆腐へうま味を与えるだけではなく、火のあたりを柔らかくする効果もあり、豆腐が煮えすぎてかたくなることを防いでいるといいます。

 

また、湯豆腐を食べる際につけるつゆは醤油のみを使ったもの、醤油・酒・みりん・出汁等を合わせたもの、ぽん酢しょうゆを入れたもの等、家庭や料亭によって様々なものがあります。つゆに添える薬味も好みによって分かれていますが、ねぎやゆず、大根おろし(もみじおろし)、かつおぶしが多く用いられているようです。

湯豆腐の歴史

そもそも、日本に豆腐が伝えられたのは奈良時代と言われています。7世紀から8世紀の奈良時代にかけて仏教の伝来とともに大陸との交流はますます盛んになり、その頃豆腐も伝来したといいます。

 

しかし長い間豆腐は、僧侶や貴族階級など特権階級のごく少数の人々が食べるものであったと考えられています。日本で豆腐が初めて文献に登場したのは寿永2年(1183年)、平安時代のことです。奈良・春日神社の供物帖に「唐符」(とうふ)という文字が登場します。さらに鎌倉時代の後半に書かれた日蓮の書簡には「すり豆腐」という言葉が登場します。南北朝時代から室町時代にかけては、寺院の記録の中に、豆腐に関するものが急激に増えていきました。このことから豆腐は仏教と深い関係があり、精進料理の食材として禅僧の間で広まっていったことがうかがえます。

 

また、湯豆腐という形が世に現れたのは京都にある南禅寺の精進料理が起源とされていますが、その根拠となる文献資料はありません。肉食が禁じられた僧侶にとって、豆腐は非常に大切なたんぱく源でした。現在食べられている湯豆腐は昆布だしで豆腐をゆでるものですが、当時のものは焼き豆腐を煮たもので、どちらかというとおでんのような料理であったといわれています。なお、今でも南禅院ではこの煮豆腐が出てきます。

 

その後茶道の広まりとともに神社仏閣の精進料理が一般にも浸透しはじめ、室町時代以降には庶民も目にするようになりました。室町時代の中期になると、豆腐売りのことや、奈良豆腐、宇治豆腐などという記述が、『七十一番職人尽歌合』という文献に登場しています。その当時は京都では豆腐作りが行われていない事が伺えますが、豆腐の保存技術としての流水の活用が開発され、次第に水のよい京都でさかんに作られるようになりました。

 

もともと、京都は上質の地下水に恵まれた土地でした。豆腐はほとんどが水でできており、美味しい豆腐作りに欠かせない京都の地下水はとても重要です。京都では先に述べたように湯豆腐が誕生し、豆腐料理は室町時代後期以降発展していきますが、それには3つの条件が京都に揃っていたからだと考えられています。1点目は精進料理を食べる僧侶という文化のパトロンの存在があること、2点目は綺麗な水が豊富にあり、美味しい豆腐を作る事が出来ること。3点目は京都が山国でありタンパク源として豆腐が求められていたことです。その結果として、京都で田楽を目玉とした茶屋が慶長年間(1596〜1615年)に誕生したのですが、それより遅れること150年、江戸で田楽を目玉とした茶屋が誕生したのは宝暦6〜7年(1756〜1757年)の頃に真崎稲荷の境内に誕生しました。それは当時江戸でのタンパク源として魚介類が充実していた事も関係していると考えられています。

名店

現在、京都にある湯豆腐の名店としては、「順正」「奥丹清水」の名が挙げられるでしょう。南禅寺参道に店を構え、湯豆腐の老舗として知られている「順正」は、「ゆどうふコース」や「ゆどうふ会席」を用意し湯豆腐のみならず様々な豆腐料理を堪能する事ができます。一方、「奥丹清水」は「総本家ゆどうふ」と暖簾を掲げており、江戸時代初期(寛永12年 西暦1635年)に創業して以来、自前の工房で豆腐造りを続けている日本最古の湯豆腐専門店です。メニューには「昔どうふ」という、当主から代々伝わってきた少し固めの古代造りの豆腐を使った湯豆腐もあります。

 

なお、京都にはこのような湯豆腐の専門店は非常に多く、湯豆腐料理を楽しむことができる店として、ほかにも「ゆどうふ竹仙」「西山艸堂」(にしやまそうどう)「豆富料理 蓮月茶や」「とようけ茶屋」「龍安寺 西源院」などがあります。また豆腐店として「嵯峨豆腐森嘉」などが有名です。

愛好家

さらに、以上のようなこだわりの豆腐を使った名店を多く有する京都の湯豆腐には多くの愛好家がいます。先述した「順正」でゆどうふ大会の審判長を務めるほど愛好しているのは落語家の桂文枝師匠。また作家の檀一雄は京都の湯豆腐店「森嘉」の豆腐を「日本を代表する数少ない食品のひとつ」と評価しており彼の著作『美味放浪記』には西山艸堂(にしやまそうどう)という世界遺産天龍寺の塔頭寺院を利用した湯豆腐店が登場します。

 

湯豆腐は長い歴史を持ち、古から現在に至るまで人々に愛されている料理です。使う食材はわずかだからこそ、その食材の良し悪しが味の決め手となります。湯豆腐は豆腐本来の味を存分に楽しむ、繊細でかつ奥深い料理であると言えるでしょう。